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世界的ベストセラーの人生指南書『七つの習慣』について、及び実践記録です。
七つの習慣…知性…夜想曲集…老歌手(カズオ・イシグロ)
カズオ・イシグロという人は、日本で生まれ現在は英国籍を獲得し、日本語はまったく駄目だそうで、『わたしを離さないで』というベストセラーを発表し、世界的にも有名な作家ですが、今日紹介する『夜想曲集』も翻訳です。
数年前に『わたしを離さないで』を読んで感動し、また新作出さないかなと思っていたのですが、先日新刊コーナーにあったので、買いました。初めての短編集です。今日はその中の『老歌手』という作品を紹介します。完璧にネタばれしますよ~
…ベネチアのレストランやカフェなどで演奏を行うバンドのギタリストである『私』は、あるレストランで演奏している時、トニー・ガードナーを見つける。彼はもう60歳を越えているが伝説の米国の超大物シンガーであり、私は子供の頃からの大ファンであった。
トニー・ガードナーは妻のリンディと一緒にテーブルにつき、演奏に聴き入っていた。私は演奏が終わり次第、おずおずと近寄り、声をかけるタイミングを伺っていたが、向こうから振り向いてくれた。
私は早速、いかに昔から熱烈なファンであるかをまくしたてた。信じられないことにガードナーは私に椅子を勧めてくれた。一通りの挨拶のあと、リンディは一人買い物に出かけたが、ガードナーが『実は君に頼みがある。リンディとわしは27年前にハネムーンでここに来た。今回この特別な旅行を計画した時、私はちょっとロマンチックなことを考えていてね、女房にセレナーデを聞かせてやりたい』。
『君にギターを弾いてもらって、それで歌いたいんだ。もちろんゴンドラからね。ゴンドラで窓の下に漕ぎ寄せて、上にいるあれのためにわしが歌う。幸いこの近くにパラッツォを借りていて、ちょうど寝室の窓の下を運河が流れている。暗くなれば壁の外灯で辺りがうまく照らされて、実にいい雰囲気になる。ゴンドラにいる君とわしとで、窓辺のあれのために、あれの好きな曲を2~3曲程度やりたい。君には充分な礼をするつもりだ。どうかね』。
夢のような話だった。六十男と五十女の夫婦が、恋する十代の若者のようにふるまう。ひじょうに愛すべきアイデアであった。私は二つ返事で引き受けた。が、何か事情がありそうな雰囲気を感じていた。
その夜、ゴンドラに乗りこみ運河に出たわたしたちはリハーサルをしながら話をした。ガードナーは言う『一つ、秘密を教えよう。ちょっとした演奏のこつだ。実際は単純なことだが、聴衆のことを知っておくということだ。どういう土地柄か、今日の客は昨日の客とどう違うか、聴衆のことを知ることで聴衆への手触りが生まれる。面と向かって歌ってやれる誰かになる』。
『今晩も同じことだ。わしらはリンディのために歌う。だから女房のことを少し話しておこうと思う』。
『リンディはミネソタ州の小さな町の生まれだ。スターと結婚することを目指してハリウッドに出てきて、ウェイトレスをしながらスターと結婚する為のルールを学んだ。女房は最初はディーノと結婚した。しかしディーノは所詮2流だった。そのうちチャンスをとらえて、わしと出会い結婚したというわけだ。今日の曲はその頃、抱き合いながら良くラジオで聞いていた曲だ』。
話ながら、めざすパラッツォの前で待っていると、やっと3階のある窓の明かりがついた。ガードナーがゴンドラの上で立ちあがった。大声で叫ぶ『リンディ』。バルコニーにリンディが出てきたが、シルエットだけだった『あなたなの』。ガードナー『そうだ。今から君に歌を捧げるぞ』。『なにかの冗談なの』。『冗談じゃない、セレナーデを歌うぞ』。『ここだと、寒いわ』。『じゃあ、部屋の中で聞いてくれ』。やがて夫人は部屋の中に姿を消した。
ガードナーはゴンドラの上で立ち、穏やかで、ハスキーで、しっかりと思いの籠った歌を歌った。2曲を歌い終えた時、部屋の中から、かすかに夫人のすすり泣きの声が聞こえてきた。
帰路、私は聞いた『ガードナーさん、教えて下さい。奥さんは喜んでいたんですか、悲しくて泣いていたんですか』。『両方だな。27年間というのは長い。今回の旅行のあと、わしらは別れる』。『わしらは、まだ愛し合っている。最初はあれにも打算があったと思う。だが、段々お互いに愛し合うようになっていった。今もそうだ』。『では、なぜ別れるんですか』。
『まだ、わしは諦めていない。カムバックした連中を見てみろ。わしと同世代ながら、しぶとく生き残っている連中を。一人の例外もなく再婚している。しかも若い妻とだ。わしとリンディでは笑い草だ。それにな、わしはもうある若い女に目を付けている。向こうも同様だ。リンディにはそれがわかっている。わしらは話しあって、別々の道を歩むことが最善だと判断した。リンディもまだ美しい。今のうちだ。』
数ヵ月後、ガードナー夫妻が離婚したことを聞いた。あれこれ思い出し、少し悲しい気持ちになった。カムバックを果たそうと果たすまいとガードナーは私にとっては偉大な歌手だ。
…というような話でした。たしかにスターと呼ばれる人々、特に欧米のスターは何度も結婚するようですが、こんな自分をリフレッシュするというか、引き立てるというかそういう動機なんですかね。ちょっと納得いかない気もしますが…それでは、また明日~
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